「冬の匂いが消える頃」(1/26)
石原千宝美 2001
T0P/KINKYO / BACKNUMBERS /


あいも変わらずこういう新しいアーティストの事を書く時には、その人の情報というものをほとんど調べない。ひたすらその唄を聴いて、思ったことを書いてみる。この「冬の匂いの消える頃」は、仕事中に車の中でつけていたFMから流れてきたものだ。ピアノだけの伴奏というのが新鮮だったのかなんなのかわからないが、とにかく聴き終わった時に僕は曲名とアーティストの名前をメモにしるした。もっとも、名前はちゃんと聞き取れずに「石原なんとか」になっていたのだが。

非常にセンチメンタルかつオーソドックスなバラードである。ただ、CDを買ってみての感想は、ふつうヴォーカルの後ろに立つという感じで録音されることが多いピアノの音が、石原の声と競うかのようにフィーチュアされていることである。それがしかしうるさい感じにならず、存在感だけが増して感じられるのは、アレンジが秀逸なせいであろう。確かに唄とのコンビネーションから、音量 が多少大きくてもけしておしゃべりにならないようなフレーズが選ばれているとともに、間奏では一気にたたみかけるような存在感を見せる。伴奏というよりは、石原とピアノの出来の良いデュオという形に仕上がっている。Cメロから転調への入り方も定石だが、ごく自然に盛り上がっていく。ここらへんをしっかり押さえているところが、クラシカルな形のバラードが好きな自分としてはたまらないのである。

石原千宝美という人のヴォーカルは少しだけ輪郭がぼけているものの、サビで聴かれるように程よい情熱的な表情も見せる。どちらかといったら大人っぽい部類の声で、ファルセットから地声に移るときに若すぎぬ 色っぽさを感じる。この種の唄を声に若さのある人が唄うと重さがなくていかにも興醒めであるが、石原の声はこの曲想にとても合っている。歌詞も言葉の耳さわりがよく、かつこの手の曲には御法度な字余りなどもなく、一字一句吟味されて作られていると感じられる。あえてちょっと気になるのは、「冬の匂いが消える頃」というタイトル、サビのフレーズ以外に引っ掛かってくる言葉がもう少し欲しいということくらい。もちろんそれはたくさんの人に聴いてもらうためにはということであって、サウンド的に申し分ないこの唄には、歌詞はこのくらい控えめでもいいかな、と個人的には思う。

良くまとまっているシンプルなメロディーよりも僕が好きなのは、この唄のイントロのフレーズである。それはエフェクトも含めて、冬、そして冬から春にかけての唄中の女性の淋しさや悲しみや少しの諦めをとても良くあらわしている。僕が今まで聴いたバックがピアノのみのバラードの中でも、もしかしたら一番好きで、一番完成度が高いと感じられる一曲なのかもしれない。曲自体は地味であるが、すべての要素が高くバランスされている。こういうシンプルさを今リリースすると、ひょっとするとひょっとするのかな、なんて少しだけ思うのだが。


ぶんせきは
KENTARO