「LIVE BEAUTIFUL SONGS」(11/29)
鈴木慶一 矢野顕子 大貫妙子 奥田民生 宮沢和史 2000
T0P/KINKYO / BACKNUMBERS /


このアルバムを手に入れて、聴いて、もう一月が経ってしまった。聴いた直後の感動からはいささかさめて、このアルバムのことについて書く機を逸してしまいそうになってしまったのだが、ようやっと時間が出来た。このアルバムみたいに、聴いて単純にとてもよかったものについては、なんかの形で文章として残しておきたかった。これで心置きなく今年を終えることが出来そうだ。

このライブがどういう経緯で行われることになったのか、ネット上では知ってる人は知っている、「ほぼ日刊イトイ新聞」に詳しい。僕はここの熱心な読者というわけではないが、暇つぶしにはちょうどいいのと、ここから発信されるメールマガジンが面白いのとで、目にする機会がちょぼちょぼあった。この5人のライヴのことを知ったのは、ツアーが始まる数日前。とてもとても魅力的な布陣だったので、情報を早く得ることが出来なかったことに歯軋りをした。

さいわいなことに、10月にこれがライヴ版として、世に出ることになった。さっそくブツを取り寄せ、聴いてみた、のだったが、ここのところの諸般の事情という奴でレビューを書くのが大幅に遅れてしまった。しかし僕の仕事の、私生活の忙しさの中に割って入ってくるほど、このライヴアルバムは出来が良かった。

こうした、複数のアーティストによるセッションのよさは、そこに出ているアーティストの知らなかった良さを発見できることにあると思う。セッションは、オムニバスアルバムやアーティストがかわるがわる出てきて自分の持ち歌だけを披露するジョイントライヴとは違って、自分の好きなアーティストがあまりそれまで興味の無かったアーティストと絡むことによって知らなかったものを見つけたり、自分の好きなアーティストの唄を他のアーティストが唄ったり、その逆もあったりして、刺激的で面白いのだ。そして、そういうものの中にいわゆる「名演」みたいなものが出てくるときも多い。

そこで、全曲レビューしてもアレなんで、この「LIVE BEAUTIFUL SONGS」のなかから、名演のようなものを何曲かピックアップしてみる。

「Sweet Bitter Candy」(鈴木慶一・奥田民生)
このメンバーの中でもっとも僕の中で情報量が少ないのが鈴木慶一だ。あがたの唄を通して触れることが多く、1ミュージシャンとしての彼というのについて、あまり意識したことがない。この唄を聴いて、適当にポップで、適当にロックで、しかし不思議というサウンドに惹かれた。ただ、奥田民生との声の相性はあんまり良くないなあ。

「横顔」(大貫妙子・矢野顕子)
大貫妙子の唄は、聴く頻度が多い割には知っている曲数は少なくて、恥ずかしながらこの唄ははじめて聴いたものだったのだが、途中で矢野顕子が加わって、大貫の世界を崩すことなくうまくセッションが成り立っている、というのがいい。女性二人、しかもお二人とも類稀なる才能の持ち主、その二人がこうして何かを演るということに、ただのにぎやかセッションとは比べ物にならないくらいの緊張感が漂うのも僕を惹き付ける。

「Mon doux Soleil」(大貫妙子・奥田民生)
この大貫妙子の唄は知っていた。知っていた分だけびっくりした。奥田民生が、あのユニコーン時代の、「May be Blue」を唄っていた奥田民生であることを本当に久しぶりに認識させられるような高音を張り上げて唄っていた。驚きの一曲。

「遠い町で」(宮沢和史・奥田民生)
宮沢和史は、同郷ながらいままでずいぶん苦手であった。声に湿気のあるヴォーカリストは嫌いではないのだが、ちょっと彼は湿りすぎだと思っていた。しかしこの楽曲に触れて、その認識を新たにしつつある。湿り気が、月並みな言い方だが優しさとか強さとか、そんなものに昇華している瞬間を見るような思いであった。奥田民生は、どんな唄を唄っても民生メロディになるなあと前までは思っていたのだが、この曲に関してはそうではなかった。彼は単なる「ちょっと出番の多い脇役」としての存在のみであった。すこし、宮沢やBOOMの唄を聴いてみようかなと思った一曲だった。

「イオン」(奥田民生・矢野顕子)
AMラジオの奥田民生の楽曲が、矢野顕子を加えてAMステレオになったという感じ。とくに、矢野のコーラスのつけ方は絶妙。一気にこの唄が若返ったような気がした。

「ラーメンたべたい」(奥田民生)
これはしっかりと民生メロディになっていた。半分意地みたいな歌唱がまた曲にマッチしていて良い。暫くは、このヴァージョンが僕の中の「ラーメンたべたい」のスタンダードになってしまいそうだ。

「すばらしい日々」(矢野顕子)
「ラーメン〜」と対比させられるような一曲。完全に矢野の唄だ。一瞬、会場も矢野のソロ・ライヴのような雰囲気になったのではないか。返す返すではあるが、矢野のアレンジメントの力というのはものすごいものだと感心させられる。

「塀の上で」(全員)
ああ、古くないやあ、というのがまず感想。その時集まったひとが、演奏し歌うことによって、唄・音楽っていろんな側面を見せるもんだと改めて実感。元唄もタイムラグ付きでで聴いた僕にとって、それほどの感慨は無いけれども、でもこうして淡々と、たとえ鈴木慶一じゃなくてもいい、誰かが演り続ければ、唄の寿命ってどんどん延びる、そんなことを思った。

このライヴの出演者が、基本的に声質に癖があったりして(特に女性陣)セットリストを組むのにはけっこう苦労したのではないかなと思われる。奥田民生の出番が他の人と比べてすこし多めだったのは、そんな事情もあったのだろう。しかし、アルバム全体として、5人の5色がそれぞれ良く出て、よく混じり合って、けっして汚い色になどならずに、質の高いライヴ版となっている。このライヴが行われた背景など何も知らなくても、愉しむことが出来ると思う。5人のうちの一人にでも興味があるならば、聴いてみる価値ありだ。



ぶんせきは
KENTARO